生存権

福祉事務所の窓口にて

風太郎:「勤めていた会社が倒産して、失業手当をもらいながら仕事を探していたのですが、仕事がみつからないうちに、失業手当の支給が打ち切られてしまいました。これでは生活できないので、生活保護の申請をさせてもらえませんか?」

窓口職員:「あなたは58歳なのだから、まだ働けるじゃないですか。働ける人には生活保護は支給できません。仕事をみつけて働いてください。」

風太郎:「仕事をみつける、といっても、この歳ではそう簡単に仕事はみつかりませんよ。これまでさんざん探したのに、私を雇ってくれる会社はなかったんです。」

窓口職員:「そんな贅沢(ぜいたく)をいっては、仕事がみつかるわけはないですよ。道路工事現場の交通整理とか、建設工事現場の作業とか、仕事はいくらでもありますよ。」

風太郎:「道路工事現場だとか、建設工事現場など、夏は暑いし冬は寒くて、とても私のような身体の弱い人間には務まりません。私は以前肋膜炎(ろくまくえん)を患(わずら)ったことがありまして、医師からは、身体にきつい仕事はしないようにといわれているんです。」

窓口職員:「そういう人は生活保護の申請はできません。まずハローワークへ行って仕事を探してください。派遣でも何でも仕事をみつけてください。」

 

途方にくれた風太郎は、ハローワークで見つけたチラシを頼りに、生活保護支援法律家ネットワーク【注:弁護士・司法書士等法律家が生活保護に関する相談を受け、必要に応じて申請同行も行う団体。首都圏生活保護支援法律家ネットワーク0120-414-052、生活保護支援九州ネットワーク097-534-7260、近畿生活保護支援法律家ネットワーク078-371-5118、東北生活保護利用支援ネットワーク022-721-7011、生活保護支援ネットワーク静岡054‐636-8611、東海生活保護利用支援ネットワーク052‐911-9290】のメンバーの司法書士事務所へ相談に行った。

 

司法書士事務所にて

司法書士:「確かにその年齢で新しい仕事をみつけるのはむずかしいですよね。仕事がなくて、失業手当もなく、援助してくれる親族もいない場合は、生活保護を受けられるはずです。それなのに福祉事務所の窓口では財政難のために、生活保護を受けられる人に対しても、なにかと理由をつけて申請させずに返してしまおうとしているところが多いのが現状です。このことは『水際作戦』と呼ばれています。これは生存権の侵害ですね。」

風太郎:「生存権ですか?」

司法書士:「憲法第25条に、『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。』と規定されているんです。この憲法25条に基づいて、生活保護法という法律が作られていて、生活に困った人が申請すると、役所が審査して、法律上の要件を満たしていれば、生活保護が支給されるんです。」

風太郎:「法律上の要件を満たさなければ申請できないんですか?」

司法書士:「申請には要件はいりません。誰でも申請できます。法律に規定された要件を満たさなければ、申請が却下されるだけです。」

風太郎:「私の場合は、申請さえもさせてくれませんでしたよ。窓口で『申請書の用紙をください。』といったら、『まず相談を受けてください。』といわれて、事情を話したら、『申請できません。』といわれて、追い返されてしまいました。」

司法書士:「それはひどいですね。風太郎さんの場合は、申請すれば受給できそうですから、一緒に申請に行きましょう。」

風太郎:「一緒に行っていただけるんですか。それは助かります。それではよろしくお願いします。」

こうして、風太郎は生活保護を受給できるようになった。生存権は生活保護だけのための権利ではなく、年金、健康保険、失業保険などの社会保障も憲法25条に基づいて運営されている。

▲このページのトップに戻る