表現の自由

息子:「今日の伯父さんのお通夜は、自宅でやるの?」

父:「いや、お寺らしいが、自宅から歩いてすぐだから、自宅へ送ってくれればいいよ。」

息子:「ずいぶん急だったね。前から具合が悪かった?」

父:「前から癌だということは聞いていたけれど、最近になって急変したらしい。」

息子:「伯父さんは、最後は経済部の記者だったんだっけ?」

父:「うん。政治部が長かったけれどな。政治部はきつかったらしいよ。張り込んで政治家のコメントをもらわなけりゃならないこともあったから。」

息子:「それは、雑誌記者も同じでしょ?」

父:「そりゃそうだ。政治家に限らないけど、取材していると『プライバシーの侵害だ!』とか、『名誉毀損で訴えるぞ!』とか、よく怒られるよ。」

息子:「でも、報道の自由があるじゃないの。一般国民の『知る権利』に応えるためにマスコミがあるんじゃないの?」

父:「そりゃそうだが、報道の自由と名誉毀損、プライバシーの侵害とは紙一重だ。報道の自由が保障されているからといって、個人の秘密を暴(あば)いたり、名誉を棄損したりするのは、人権侵害になりかねないから、慎重に考えなければならない。その事実を公表した場合の公共の利益と侵害された個人の権利とのバランスを考えなけりゃならないんだ。」

息子:「政治家の娘が離婚したとか。」

父:「政治家本人の離婚ならともかく、娘の離婚というのは、プライバシーの度合いが高くなるからね。小説家が友人から聞いた話を元に小説を書いて、出版ができなくなった事件があったが、それも、その小説を読めば、誰から聞いた話か特定できてしまうかららしい。」

息子:「そうやって書いてから裁判を起こされたら、書くのをためらってしまうんじゃないの?」

父:「そりゃ、書くときには慎重になることもあるけれど、ためらってばかりいたら、報道の使命は果たせないからな。汚職やら、談合やら、年金の問題など、公共性の高いことは、恐れずに書かなきゃならない。主権者である国民に伝えるべきことを伝えないと、選挙や憲法改正国民投票のときに、国民が正しい判断ができないからね。」

息子:「以前、一緒に集会を開いた市民団体の人が、自衛隊宿舎にビラを配ったということで、住居侵入で捕まってしまったんだ。そんな事件があったから、今後は自衛隊宿舎には配らないことにしたらしい。ピザや宅配鮨のメニューを配っても捕まらないのに、『イラクへの自衛隊派遣反対』のビラだと捕まるなんて、思想を取り締まってるとしか思えないよ。」

父:「自衛隊が、イラク派遣反対の集会を調査して、レポートを作ったという話もあったし、最近思想や表現活動に対する監視が強まっているね。」

息子:「国の方針に逆らう人は、国から目をつけられますよといわれているようで、一般の人たちは、国の方針に逆らう発言をするのをためらうようになるんじゃないの?そうなれば、国が国民の表現活動を監視するということは、集会・結社・言論・出版などの表現の自由が圧迫を受けるということになるよね。」

父:「表現の自由への圧迫だけではなくて、国の方針に逆らう思想をもつこと自体が危険なことのように思う人が出てくれば、国民が洗脳されかねないよね。思想・良心の自由も圧迫を受けてくるんだ。戦前『非国民』とかののしられて、戦争に突き進んでいったときのようにね。」

息子:「さあ、着いた。ここでいいかな?」

父:「渋滞に会わなくて助かったよ。」

息子:「終わったら、電話くれれば、迎えに来るよ。」

父:「ありがとう。」

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