戦争放棄と平和のうちに生きる権利

イッペイ:「広島は初めて?」

カズコ:「そうよ。修学旅行のような機会がないとなかなか来ないもの。それにしても、ここの展示はショックね。」

イッペイ:「原爆ドームも無残だったけど、この平和記念資料館には、生々しい資料がたくさんあるね。」

カズコ:「ぼろぼろになって血がべったりついたような服とか、ケロイド【注:やけどやけがで皮膚が赤く引きつった状態もしくは盛り上がった状態になり、自然には治らない。】で赤く染まった背中の写真とか、とてもリアルで、心の底から、『戦争なんか、決してしてはいけない』って思うね。」

イッペイ:「僕たちと同年代の生徒たちが勤労動員【注:第二次世界大戦末期、国内の労働力不足を補うため、「勤労即教育」という建前で、現在の中学・高校生が軍需工場(爆弾や飛行機などの兵器を製造する工場)や軍事施設で働かされた。親元を離れて、遠方の工場まで派遣された生徒も多い。軍需工場は、空襲の標的にされたことが多く、原爆のみならず、空襲の犠牲になった生徒も多い。勉強よりも、戦争への協力が優先された。】された先で被爆したことも多かったようだね。子供の遺体もみつからないで、悲しんでいるご両親の話も展示されているし。」

カズコ:「うちのお祖父さんは、空襲で焼け出されたらしいんだけど、家族で逃げ惑っているうちに、妹がはぐれて、そのまま見つからなかったんだって。」

イッペイ:「海外では、日本軍もずいぶん残酷なことをしたらしいね。」

カズコ:「731部隊【注:関東軍(満州駐在の日本陸軍)の生物・化学兵器研究部隊。とらえた中国人・モンゴル人を細菌兵器等の人体実験に使用した。】とか、南京大虐殺【注:1937年12月日本軍が南京攻略の際に、中国兵及び一般市民を虐殺したとされる事件。被害者数は、数千人説から数十万人という説もある。「事件はなかった」、とする説もある。日本人将校・兵士の証言では、民間人も含めて、無差別に殺害するようにという指示があったとされる。】とか?」

イッペイ:「平和なときには、人殺しは罪なのに、戦争ではなぜ人を殺していいんだろう?」

カズコ:「いいわけないわよ。戦争をしちゃいけないのよ。国益だとかなんとか言っても、人の命が一番大事なんだから。」

イッペイ:「基本的人権だとか法の下の平等だとかいっても、命が危険にさらされれば、人権どころではないからね。平和こそが人権の最低限だね。」

カズコ:「だから憲法で、『もう戦争はしない』って決めたんでしょう?」

イッペイ:「戦争放棄【注:9条1項「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」】のことだね。前文にも、『政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し』とあるから、国策のために政府が戦争を起させないように決めたんだね。」

カズコ:「政府に戦争を起こさせないように、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。』と、軍隊を持たないようにきめたんでしょ。これって自衛のための戦争もできない、っていうことでしょ?」

イッペイ:「そうだね。明治以来の日本の戦争を振り返ってみても、日本の国土が侵略されたことはないのに、『満蒙【注:日本が建国した旧満州国。中国東北地方と内モンゴル自治区からなる。】は日本の生命線【注:20世紀初め帝政ロシアの南下政策を食い止めるため、日露戦争を闘い、南満州鉄道の権益を獲得した。日韓併合後、ロシア革命により共産主義化したソ連に対する防波堤の位置づけになった。】』とか言って、満州事変【注:満州の軍閥が中国寄りの姿勢を取り始めたことを危惧した関東軍(満州駐留の日本陸軍)は軍事行動を起して、満州全土を占領した。】は自衛戦争という大義名分で起こしたものだからね。自衛のための戦争もできなくしなければ、戦争はなくならない、ということなんでしょう。」

カズコ:「アメリカでは銃の所持が認められているから、年間1万人以上【注:約1万2千人】の人たちが銃で撃ち殺されているんでしょ【注:総殺人事件数約1万8千件】。日本の殺人事件数約1,200件【注:うち銃での死者は50人以下】に比べて、はるかに多いよね。武器を持っているから使いたくなるんでしょ。」

イッペイ:「そうだね。日本でも、『護身用』とかいって持っていたナイフで人を刺した学生が何人かいたからね。」

ヒデキ:「そんなこといっていても、外国から攻めてきたらどうするんだい。軍隊がなければ、国民は守られないよ。」

イッペイ:「ああ、ヒデキか。やっと追いついたね。そういうときのために自衛隊があるんじゃないのか?」

カズコ:「何いってんのよ。戦力の保持は憲法で禁じられているんでしょ。」

イッペイ:「そうはいっても、今の国際情勢では、軍隊がなければ、国際交渉で強い軍隊を持つ国の要求に屈してしまうし、自衛隊は空母や爆撃機など、他国を侵略できるような装備は持っていないし、国を守る必要最小限の実力なら、『戦力』にはあたらない、という考え方もあるようだし。」

ヒデキ:「核兵器を開発したりする危険な国がいくつかあるのだから、そうした国の不穏な動きを力で抑えなければ世界の平和は維持できないよ。今の日本は大国の傘の下にただ乗りしているようなもので、日本も世界平和に積極的に貢献しなければ常任理事国【注:国際連合安全保障理事会】に入れないよ。」

カズコ:「軍事貢献だけが国際貢献じゃないでしょ。外国の大地震の後などに自衛隊を災害復旧のために派遣したり、大勢のNGO【注:政府機関でない民間の団体で、軍縮、飢餓救済、環境保護などの問題に関する活動をしている。】やボランティアの人たちが戦災者や被災者を助けに行ってるわ。日本が海外で軍事力を行使したりすると、第二次世界大戦で日本軍から被害を受けた東アジアの人々が怒るわよ。」

イッペイ:「とりあえず、今自衛隊をなくしたら、不安だし、憲法の平和主義の理念を高く目標として掲げて、必要がなくなるまで、当面自衛隊はそのままにしておく、ということでどうかな。」

カズコ:「さっきは、自衛のための戦争もすべきでない、っていってたのに、ずいぶん日和見的ね。でも、9条があるから、軍事費がGDP【注:国内総生産、国内で生産される物やサービスの付加価値の合計額】の1.0%程度で済んでいるんでしょ。アメリカや中国は3.5〜4.1%だし、イギリスは2.7%くらい、ヨーロッパで一番少ないドイツでも1.5%よ。軍事支出を2〜3倍に増やしたら、年金や生活保護などの社会保障が削られるわ。私たちの生活はどうなるの!」

ヒデキ:「日本の企業が武器をたくさん外国に輸出できるようになれば、日本経済も豊かになるよ。」

カズコ:「でも、もうかるのは会社だけで、もっともうけるために『戦争をしよう。』ということになるし、私たち一般市民は豊かになるどころか、貧しい人たちはますます貧しくなるじゃない。」

イッペイ:「まあ、9条があるから、自衛隊を外国に派遣しても武力行使しなくてすむし、軍事支出もこの程度で抑えていられるという効用があるんじゃないのかな。日本が戦争をする国になったら、多くの人命が失われるし、地下鉄が爆破されるかもしれないし、やはり命が一番大事だね。」

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