憲法って何?U

中学校の教室にて

先生:「これで、中学の社会科の授業を終わりにします。最後に何か質問はありませんか?」

ノリオ:「日本国憲法は、国民の意思に基づかずに制定されたと言う人がいます【注:日本国憲法は、第二次世界大戦終結後、日本を占領した連合軍総司令部(GHQ)に押し付けられたものなので、無効だという主張がある。】が、日本人が作ったものではなかったのでしょうか?」

先生:「終戦時に日本を民主化することを義務付けたポツダム宣言【注:1945年7月26日第二次世界大戦末期に連合国(アメリカ、イギリス、中国)がドイツのポツダムに集まって終戦のための協議をし、日本に降伏を促した。日本軍から武器を奪って、日本を民主化し、国民主権国家ができるまで連合国は日本を占領すると宣言した。】を日本政府が受け入れたことによって、日本政府としては、天皇主権【注:天皇が日本の国を治めること】の明治憲法を見直さなければならないことになりました。そこで、1946年2月に日本政府が明治憲法の字句を一部修正しただけの憲法草案を占領軍に提出したところ、占領軍から拒否されて、代わりに占領軍の作った草案を手渡たされて、そのとおりにしなさいと言われて作ったのが今の日本国憲法だから、『日本人の意思に基づいていない』と言う人がいるんですね。」

ノリオ:「やっぱり、そうなんですか。」

先生:「しかし、占領軍の作った草案というのは、占領軍がゼロから作ったものではないんですよ。」

ノリオ:「それじゃ、誰が作ったんですか?」

先生:「終戦後、政党や民間の研究団体が何通りかの新憲法草案を発表しています。その中で、鈴木安蔵、高野岩三郎といった人たちにより構成される憲法研究会が1945年12月に占領軍と日本政府に新憲法草案【注「憲法草案要綱」】を提出して、新聞にも報道されました。占領軍は、この草案に注目【注:占領軍民生局のラウエル中佐は、憲法草案要綱を評価して、「いくつかの不可欠な条項が抜けているが、民主的で賛成できる。」と幹部に報告した。】して、これを占領軍の草案に活かしたんです。」

ノリオ:「それじゃ、もともとは日本人がアイデアを出したんですね。」

先生:「政府案を発表してから、衆議院を解散して、総選挙で選出された衆議院で憲法案が審議されたので、国民の意見が反映されていると言ってもいいと思います。議会での審議過程でも、草案にはなかった生存権【注:「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」】が追加されたり、草案では一院制【注:衆議院のみ】だったのを二院制【注:衆議院と参議院】に修正したり、といういくつかの修正が加えられました。だから、占領軍が作った草案を日本人のものにしたんですよ。」

ノリオ:「それなら占領軍から『押しつけられた』と言っても、日本人の意見も大分反映されているんですね。」

先生:「憲法には改正手続が定められている【注:「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」】のですから、1952年に占領が終わってから憲法改正するチャンスがあったのですが、結局今まで何も改正されませんでしたね。」

ノリオ:「それって、結局国民が憲法を認めたということではないんですか?」

先生:「そういう見方もできますね。」

 

リツコ:「今の憲法には、国民の権利ばかり多く書かれていて、義務が少ない、といっている人がいますが、それでいいんでしょうか?」

先生:「確かに、思想良心の自由、表現の自由、学問の自由、信教の自由など、自由や権利は多いですが、義務は、納税、勤労、子どもに教育を受けさせる義務の3つしかありません。単純に数だけ比較すれば、権利の方が多いわけですが、憲法はそれでいいんです。」

リツコ:「国民の義務は少ない方がいいからですか?」

先生:「実は、国民の義務は、憲法よりも、法律にたくさん規定されているんですよ。たとえば、子どもが生まれたら、14日以内に出生届けをださなければならない【注:戸籍法49条】とか、自動車は道路の左側を走らなければならないとか、自動車を運転していて、不注意で人にけがをさせたら、損害賠償しなければならないとか、契約は守らなければならないとか、いくらでもあるので、かぞえたらきりがないですね。してはいけないこともたくさん規定されています。人を殺してはいけないとか、人のものを盗んではいけないとか、これも挙げたらきりがないですね。」

リツコ:「そんなに、かぞえきれないほどの義務があるのなら、『義務が少ない』などということがあるわけないですね。でも、憲法に義務が少ないのはどうしてですか?法律で規定している義務を憲法に規定すれば、そのようなことをいわれなくても済むのではないでしょうか?」

先生:「本来、憲法に国民の義務を規定する必要はないのですよ。憲法というのは、国民が国家機関【注:国会、行政官庁、裁判所、地方公共団体等、「政府」ともいう。】に対して、これだけの権限を与える、その代わり、国民の基本的人権は、侵害してはならない、と決めるものだからです。憲法41条で、国会に立法権を与えていますよね。憲法31条では、法律の規定によらなければ国民の生命、自由を奪ったり、刑罰を科してはならないと規定されています。逆から読めば、国会が作る法律で国民に刑罰を科すことができるということですよね。29条では、財産権の内容は、法律で定めると規定されていて、財産権も法律で制限できることになります。国民同士の間で、他人の権利を侵害しないように法律で義務が定められたり、禁止事項が規定されているわけで、その法律に違反したら、刑罰やいろいろな制裁が用意されているわけです。そのような大きな権限を憲法によって国民は国家機関【注:国会、行政官庁、裁判所、地方公共団体等、広い意味で「政府」ともいう。】に委任しているんですね。だから、政府の大きな権限をもってしてもここだけは侵してはいけないという領域を、『基本的人権』として、国民の側に確保しているわけです。憲法に義務を規定する必要があるとしても、納税の義務くらいでしょうか。政府にこれだけの仕事をやりなさいと決めているわけだから、政府が仕事をするためには費用がかかるので、その費用を払うために国民は税金を払わなければならないというわけですよね。」

リツコ:「そうか、憲法で国民が国家機関に、国民を縛る法律を作っていいよ、国民が法律を守らなかったら罰していいよ、と大きな権限を与えているから、『これだけは奪ってはいけない』という基本的人権を定めているんですね。憲法に権利が多くて義務が少ない理由がわかりました。」

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